地下水の年代トレーサーには、放射性同位体と不活性ガスの2種類があります。
放射性同位体は、時間の経過にともなって放射壊変し、濃度が減少する特性があるため、この減少の程度をみることによって年代情報を引き出すことが出来ます。一般的に使用される放射性同位体は、水素(3H:トリチウム)、炭素(14C)、塩素(36Cl)の3種類で、対象とする地下水の年代によって使い分けられます。
溶存ガスのトレーサーとしては、化学的に不活性なCFCs(フロン類)・SF6(六フッ化硫黄)や希ガス(3He)が使用されます。CFCs・SF6は、工業用の用途で利用されてきた不活性ガスです。これらの大気中の濃度は、生産量の増加にともなって過去数十年の間に飛躍的に上昇する特徴がもっているため、この上昇トレンドを利用して、滞留時間60年未満の若い地下水の年代を推定することが可能になります。希ガス(3He)は放射性水素同位体(トリチウム)と組み合わせることによって(トリチウムーヘリウム法)、若い地下水の詳細な年代推定が可能です。
トレーサー | 種別 | 最適年代幅 | 時間分解能(理論値) | 水の性状 | 立地 | |||
地下水 | 温泉水 | 河川水 | 自然流域 | 都市域 | ||||
SF6(六フッ化硫黄) | 不活性ガス | 0~40年 | 1年 | ○ | × | × | ○ | △ |
CFCs(フロン類) | 不活性ガス | 30~60年 | 1年 | ○ | × | × | ○ | × |
トリチウム | 放射性同位体 | 70年より古いか若いかの判定 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
トリチウム-ヘリウム | 放射性同位体-希ガス | 0~70年 | 1年 | ○ | × | × | ○ | ○ |
14C | 放射性同位体 | 5000~4万年 | 約100年 | ○ | △ | × | ○ | ○ |
36Cl | 放射性同位体 | 5万年~100万年 | 約1万年 | ○ | ○ | ○ | ○ | △ |
〇:適、△:場合によって不適、×:不適
表1に示したように、個々のトレーサーには得意な年代幅があり、適用できる地下水環境も異なります。そのため、地下水の年代を推定するためには、目的とする地下水の予想される年代や水の性状、地下水環境などを考慮し、トレーサーの種類を選択する必要があります。
しかし、地下水の年代や流動状況は、降水量、地形、地質、堆積構造などの多くの要因を反映して空間的に大きく変動するため、地下水の専門家であっても、それぞれの地下水の年代測定に最適なトレーサーを選ぶのは容易ではありません。
地球科学研究所は、効率良く地下水の年代測定を行うために、あらゆる地下水環境に適用可能で、“新しい地下水”と“古い地下水”の判別が容易な「トリチウム」を基軸とした2段階に分けたトレーサーの適用をお薦めしています。
地球科学研究所の推薦する2段階のトレーサー適用